新年会兼歓迎会から2週間が過ぎた頃
小鳥のプロデューサーに対する感情は徐々に昂っていた。
あずさもスタートの遅れを取り戻さんと速度を増して着々とファンを集めプロデューサーも忙しそうにしている。
それでもプロデューサーは帰ってくると事務の仕事に着手し小鳥の負担を減らしてくれている。
アイドルや他の社員の為に笑顔で出迎える様努めて来た小鳥も、今やプロデューサーの笑顔で労をねぎわれている。
人当たりも良く、仕事も出来て、良く気付いて、それでいて2枚目
そんなプロデューサーは既に女性社員の間では結構な人気があり憧れる社員も少なくなかった。
勿論、小鳥もその中の一人であり尚且つ最も身近にそれを実感している。
そんなプロデューサーだからこそ余計に気持ちは昂ってしまうのだった。
プロデューサーが隣で笑っていてくれる。
「フフフッ♪」
小鳥が時計を見上げるとそろそろ18時になる。
予定ではそろそろプロデューサーは出先から帰ってくる時間だった。
事務所のドアがカチャリと開くと溜め込まれた暖気が逃げ変わりに寒気が吸い込まれてくる。
「只今戻りましたー」
言葉と共にプロデューサーが事務所に帰ってくる。
「あ、おかえりなさい♪」
プロデューサーの顔を見ると自然と顔が綻んでしまう。
「只今です」
プロデューサーは席に着くと両手をさすった。
「外寒かったでしょう?コーヒーとお茶どちらがいいですか?」
「えっとじゃあコーヒーを、すいません」
小鳥は笑顔で頷くと給湯室へ向かった。
「ふんふふんふーん♪」
鼻歌混じりにコーヒーの準備をする。
ゆらゆらと湯気を上げるコーヒーをお盆に乗せる。
プロデューサーは指を組んで何かを考えている様だった。
「お待たせしました」
「あ、ありがとうございます」
プロデューサーはマグカップを受け取ると一口啜った。
「何か考え事ですか?」
「ええ、あずささんの今後の活動を考えてました」
「最近調子が上がってきましたよね、あずささん」
「そうですねぇ、ただ何と言うかまだ本調子ではないと言うか実力を出し切れていないと言うか…」
「そうなんですか…でも、プロデューサーさんが付いていればきっと大丈夫ですよ」
「うーん、そうだといいんですけどね」
「きっとそうですよ、私が保証します」
小鳥はトンと自分の胸を叩いた。
「ははっ、ありがとうございます。今日は何かお手伝いできる事ありますか?」
プロデューサーが聞くと小鳥は首を横に振った。
多少の残務はあるものの一人で片付けられない程の量ではなかった。
「ありがとうございます♪でも今日は大丈夫ですよ」
「そうですか、じゃあ報告書をまとめようかな」
「はい」
小鳥の返事を聞くとプロデューサーは一枚の紙を取り出しボールペンを走らせた。
小鳥は残務を手早く終わらせると動かしていた手を止めて視線をプロデューサーに移した。
プロデューサーは時折ペンの後ろでトントンとこめかみを叩いていていた。
二人きりでプロデューサーが隣で仕事をしていて、自分はそれを静かに見つめている。
小鳥の一日の中で最も心が安らぐ大好きな時間でもあった。
そしてそんな時間を過ごしているとプロデューサーの事が好きなんだなとつくづく実感してしまう。
想いを伝えたい。
チャンスは幾らでもあった。
そう何度も思ったがその都度、勇気が持てずに「明日にしよう」と自分に言い聞かせ結局言い出すことは出来なかった。
そう言う自分を恨めしく思っていた。
張り詰めた気持ちを抑えきれずどうしようもない不安に駆られて涙を流した夜が続いた日もあった。
結局自分は変われないまま今に至っている。
小鳥は小さく溜息を吐いた。
(なんで私ってばこんななんだろ…)
自責の念を募らせながらも小鳥はこの時、ひとつの思いを心に秘めていた。
変わりたい
こんな自分を変えたい
一歩前に踏み出そうと…